10 October, 2010(Sun)

恐怖の大洪水。

昨日夕方からものすごい雨が降り続け…
ずっとずっと滝のような雨。
深夜2時,小児病院(クーが入院中…)の周りでも膝くらいまでになった。
こりゃあ,ワット・ボー地区は最悪だ。
宿直の先生に電話をしたら案の定。
校庭は完全に湖。
校舎の中にも浸水,既に10センチくらいだと。
どんどん上がる水位にかなりテンパった様子の宿直。
雨と雷の音で電話が全然聞こえず,とりあえず大至急学校へ。

学校近くに来ると道路は完全に川と化している。
バイクでは進めそうにない。
途中のゲストハウスに置いて歩いた。
滝の中を腿まである水を漕いでいくので…進まない…進まない…。
何度も転んでようやくたどり着いたら…
校内の電気がばっちりついてて…こっちが焦る。
「死にたくなければまず電気を落として!!」
指示を受けてはっとした宿直の先生。
2人で泳ぐようにして主電源を切りに向かった。

洪水のときの死亡事故は溺死ではなく感電死が圧倒的。
こんなときに限って停電してないなんて…。

電化製品と,棚の下のほうの書類を非難させる。
その間にもどんどん水位が上がってくる。
深夜だったが校長に電話し,他の男の先生方も呼んで…
何とか被害を最小限にとどめることができた。


さすがに3日寝ないと人はけっこう限界にくる。
そのままクーの病院に戻ったら,全身ずぶ濡れのままフロアで爆睡してしまった。
目が覚めてびっくり。
心配したお医者さんが点滴と傷の処置までしてくれてたらしい。
小児病院なのに…申し訳ない限り。

とにかく,文字通り嵐のような一日が過ぎ。
今朝クーは無事退院。
とりあえず全てひと段落。


午後学校の様子を見に行くと,子どもたちがイカダを作ってくれた♪
流れてきた廃材と発泡スチロール,ペットボトルなんかを上手に繋いである。
昨夜の傷が腫れてスネが太ももくらいになっている私の足を気遣って。
我が家の子どもたちは至れり尽くせり。
マーリッは 「栄養を摂らなくっちゃ」 と,張り切って料理を作ってくれた。
タエレアンは一日中消毒液を持って追いかけてくる。
クーはあまり動けない私にまとわりついて嬉しそう…。



日が出てるから水位も大分引いてるし。
今回は川がぎりぎり氾濫しなかったから,昨年ほどはひどくない。
しかし…気になるのはさっきのラジオ。
「100キロくらい先の川上の方でも大雨があり,
 シェムリアップ川の水位はこれからあがる」と…。

その前に引きこもりの準備をしなくっちゃ!。
これから米とインスタントラーメンと木炭を調達してこよう。

川が氾濫しなくても,この分だと学校は3~4日お休みだし。
洪水だから家庭訪問は不可能なので。
たまった仕事が片付けられるかも♪
家の大掃除もできちゃうかも♪
久しぶりに子どもたちと遊びまくれちゃうかも♪♪♪

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応援いただいている皆さま,長い間ブログをさぼってしまってごめんなさい。
来週中に最近の様子アップします!
絶対の絶対に!!




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[ 2010/12/16 22:17 ] 日記 2010 | TB(0) | CM(1)

12 July. 2010 (Mon.) 後編

約束の11時を回った。
母親は現れない。
電話も出ない。
「おそいね。」
ピッセインが言う。
「おそいね…。」
ピッサイが涙目で答えた。

母親がまさか11時に現れないなんて…
予測していなかった。
「よかったね,お母さんと暮らせることになって。」
だなんて。
何てうかつなことを言ってしまったのか。

12時半。
とりあえず子どもたちを家に連れて行き,食事を取らせる。
心身ともによっぽど疲れているのだろう。
食事を取りながらうとうと。
2人を寝かせ,マーリッに頼んで,私は学校へ戻る。
母親は現れない。
さすがに心配になり,サーヴェー先生に家を見てきてもらった。
そして,「家には行っていない」との連絡を受ける。
荷物をまとめに行ったのではないのか。
何か事故でも起こったのか。
まかさ逃げ出したのでは…。


昼寝から目覚めた2人をマーリッが学校に連れてきた。

17時,下校時間になった。
が,まだ母親は現れない。
2人がピアニカでキャッキャと遊んでいる。
もし母親が来なかったら。
2人に何て言えばいいのだろう…。

時間だけが過ぎていく。

19時,日が暮れた。
とりあえず家に連れて行こうか…
そう思って外を見た。
母親が歩いてくる。
やった!
戻ってきた!!

服を着替え,髪を結いなおし,こってりメイク。
「あぁ!私の息子!」と両手を広げる。
朝と同じ。
涙目で息子たちを抱きしめる。

「11時に迎えに来るはずでしたよね?
電話も繋がらなかったし…一体どこへ行っていたのですか?」
「ちょっと…迷子になって。」
「・・・・・・。」
言葉が出ない。
どんな言い訳だよ!

「子どもたちがどれだけ不安な思いをしたか…せめて電話くらいくれれば…。」
「あら,心配したの?ごめんね~。」と,子どもたちの顔をさする。
「お母さんはちょっと忙しかったの。もう大丈夫だよ。」

この母に子どもが守れるだろうか。
またすぐに子どもを捨てるのではないか。
不安がいっぱいに広がる。

どんな母でも,子どもにとってはかけがえのない母。
お腹を痛めたかけがえのない子ども。のはずである。

私にできることはない。




ピッセインが描いてくれた絵。

胸が苦しくてしょうがない。
悔しくて悔しくて。
何もできないちっぽけな自分に腹が立つ。


母の手を握り去っていった2人の小さなうしろ姿。
曲がり角のところで振り返った。
「ねあっくる~!!」
元気いっぱいの笑顔。

見えなくなるまで手を振ってくれた。



しあわせになってほしい。
絶対に絶対に。
苦しみを乗り越えて前へ進めるように。
母のいっぱいの愛に包まれることを。
希望にあふれた未来が2人を待っていることを。

心から心から願う。


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[ 2010/08/09 16:19 ] 日記 2010 | TB(0) | CM(5)

12 July. 2010 (Mon.) 前編

夜中,1時帰宅。
キッチンのテーブルの上。
ピッセインが描いた一枚の絵。

『だいすきなねあっくるーちぃへ』



許せなかった。

子どもを傷つける人間が。
無責任な大人たちが。
子どもを守ろうとしない親たちが。

そして自分の非力さが。



朝5時半,担任のサーヴェーから電話が入った。
「クラスにピッセインの家を知っている子がいた」 と。
6時半,サーヴェー先生,シヴォン先生,ピッセインで彼の家へ向かう。

驚いたことに,家は学校から300mほどのところにあった。
こんなに近かったとは…。
家に着くと,母親らしき女性が両手を広げて
「あぁ!私の息子!」とピッセインを迎えた。
もう一人の女性が
「このバカな息子は!どこにいっていたんだ!」と怒鳴った。

「どっちがお母さんですか?」
「どっちもだよ。」
「…??」。
「そっちが生みの母で私が今の母。」
父親は出かけて留守だという。

父親には妻が2人。

最初の妻がこっそり外で話してくれた。
旦那が2人目の妻と結婚し,1人目の妻は2人の子どもを連れて田舎に戻った。
(正式に離婚をしたわけではない)
そこで新しい男ができ,子どもを元の旦那のところに預けた。
その男とだめになって,また子どもを引き取った。
その際に,子どもが虐待を受けていることを知った。
だが,また新しい男ができた。
そしてまた旦那のところへ子どもを預けた。
昨夜,たまたま電話で子どもたちが家にいないことを知った。
今朝慌ててシェムリアップにやってきた。と。

その割にはきれいに着飾っている。
バッチリメイクまできめて。
心配でいてもたってもいられずやってきた。という感じはない。

もっと驚いたのはピッセインに兄弟がいたこと。
同じ顔の男の子。
ワット・ボーの2年生。
彼も家出をしていた。
今朝,お寺で見つかって家に戻されたばかりだったという。

これで一件落着。
と,2人の母親は私たち教員を追い返そうとした。
シヴォンと目配せした。
「ここで子どもを引き渡すわけにはいきません。」
「私たちは家の確認に来ただけです。」
「まずは校長先生に会って話をしていただきます。」
「お父さんと2人のお母さんと,2年生の息子さんも連れて全員で学校へお越しください。」
「9時にお待ちしています。」

「親たちが逃げ出したら困る」
そう言って,サーヴェーは家に残って見張り番をした。

学校に戻ったが,校長はまだ会議が終わっていなかった。
クーとタエレアンを呼んで,ピッセインと一緒に保健室にいてもらうことにした。
そして校長室へ戻ったそのとき。
ピッセインの家族が現れた。
学校に戻ってまだ10分もたたない。
「ピッセインが心配で…」
と,媚びるような笑顔で父親が言った。

校長の会議が終わるまで待ってもらうことに。
教頭が親に話しかけた。
そのすきに,私はピッセインの兄に話しかけた。

兄の名前はピッサイ。
2日間,何か食べたのだろうか。
顔色が悪い。
「ピッサイ,顔を洗ってこよう。」
そう言って外へ連れ出した。
母親の視線を強烈に感じた。

顔を洗って外のベンチに2人で腰掛けた。
「ピッサイ,昨日は何か食べた?」
「・・・うん。」
「ずっと一人だったの?」
「うん。」
「誰かにご飯もらえたの?」
「うん。ず~~っと歩いたらパンをくれた。」
「ず~っとってどこまで歩いたの?」
「言えない。」
「どうして言えないの?」
「話したら殴られる。」
「誰に殴られるの?」
「言えない。」
「この傷はどうしたの?」
「・・・やけど。」
「こっちの傷もやけど?」
「・・・。」
「今日お父さんお母さんに学校に来てもらったのはね,
もうピッサイやピッセインが苦しい思いをしないようにするためなんだよ。
本当のことを教えてくれないかなぁ。」
ピッサイの目からポロポロと涙が落ちた。
「でも!話したら包丁で口を切るって言われた!」
「絶対にそんなことさせないから!絶対に絶対に大丈夫だから!」

気付いたら横にピッセインが立っていた。
少し離れたところでクーとタエレアンが見守っている。

「包丁で口切るって。本当なんだよ,ねあっくるー。」
ピッセインがぼそぼそと話し始めた。
「これはね,おばさんが包丁で殴ったの。」
自分の腕を差し出して言う。
「これはね,木の棒で殴られたの。」
「これはね,竹で刺されたの。」
「これはね,お父さんが殴ったときにコンクリートにぶつかったの。」
2人が身体中の傷について淡々と話す。

「お母さんは?今まで暴力を振るったことある?」
「ない。」
2人声をそろえて答える。

校長先生が会議室から出てきた。
校長先生と,まずは2人で校長室へ。
急いでこれまでのいきさつを報告する。

いつもとは雰囲気が違う。
校長先生と根本から意見が分かれたことは今までなかった。
大抵の問題は,お互い考えていることがよく分かる。
だが,今回は全く通じていない。
一昨日からの私のピッセインへの対応を快く思ってないのは明らかだった。
保護者と話す気はないと言う。

「ちぃはどうしたいんだ?」
と困った様子の校長。
「校長先生はどうしたいと思っていますか?」
「ここまでくると完全に家庭・親子・夫婦の問題だ。
我々は学校としての責任はすでに果たした。
あとは親が自分たちで解決すべきではないか。」
「責任はどうでもいい!大事なのは子どもを守ることじゃないか!
虐待を受けてる子どもを見捨てるのですか。
身体中の傷を見てください。
包丁で切りつけるような親の元へ,黙って子どもを返すというのですか。
それが 『学校としての責任を果たした』 ということなのですか。」
「こんなことはカンボジアではよくある。暴力がひどいようなら警察に任せるべきだ。」
「賄賂でコロコロひっくり返るようなカンボジアの警察に,子どもの命を任せていいのか。
子どもの立場に立って,最後まで子どもを守ろうとするのが教師じゃないか。
立場や責任のことばかり心配して,保護者と話もできないなんて情けない!
ここで子どもを見捨てるような学校なら,私はワット・ボーで教員なんかやってられない!」
「・・・・・・。」
しばらく沈黙が続いた。

「だが…両親がいるのに孤児院へ入れるというのは難しい…
親から引き離すのは無理ではないか…。」
「母親がいます。母親の家はコンポンチャムだから転校することになるけれど。」
「う~ん…。その母親も信用できないが。」
「少なくとも虐待はしていないようです。」
「そうか…」

意を決したように校長先生が立ち上がった。
虐待をしていた両親と話す。

その間に私は母親を校長室へ呼んだ。
虐待について伝える。
泣き崩れる母親。
「子どもを引き取る覚悟がありますか。」
「はい,連れて帰ります…。」
「絶対に二度と父親のところへ戻してはいけない…ということですよ…」
「はい…もう絶対に子どもを手放しません。」

部屋の外から校長先生の大きな声が聞こえた。
両親ともに虐待を認めない。
子どもは自分たちが引き取る,学校には関係ない。
と言い張る。
激しいバトル。
校長先生がキレた。
「よし,じゃあ今から警察を呼ぼう。
子どもたちの身体中の傷跡についてしっかり説明することだ!」
携帯を取り出す。
親が慌てる。
「ちょっと待ってくれ!」
「何も問題ないなら説明できるはずだ。
こちらの話を聞きえいれてもらえない以上,後は警察に任せるしかない。」
「わかった,わかった。子どもは母親と一緒に連れて行ってもらうことにする。」
父親が言った。
「別にうちは困らないよ。
これまで面倒見てやってきたのに,こんな仕打ちをされるとはね。」
2人目の妻が言った。

『子どもを母親に預ける』という書類にサインをし。
夫婦はさっさと帰っていった。

私の手を握り,心配そうなピッセインとピッサイ。

母親は荷物をまとめるために旦那の家に行くという。
「11時に学校に迎えに来る」と約束。
「ここで待っているんだよ。お母さんはすぐに戻ってくるからね」
そう微笑みながら子どもたちを優しく抱きしめ,急いで帰っていった。

保護者と真剣に話してくれた校長先生。
さすがだった。
私が言ったことなんて,本当は彼も分かっているんだ。
ただ,『家庭で起こっている問題に教員が入り込む』
というのはカンボジアではあり得ないこと。
そこに一歩踏み込んだ彼は,やっぱりすごい。

後編へ・・・


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[ 2010/08/08 21:48 ] 日記 2010 | TB(0) | CM(0)

11 July. 2010 (Sun.)

6時半,みんなで朝食。
ピッセインもぐっすり寝て昨日より顔色がいい。
朝食後は,みんなで学校へ。
日曜だから学校には誰もいない。
もしかしたら親が捜しに学校へ来るかもしれない。

「ネアックルー,ピッセインは学校のカバンを失くしちゃったんだ。
ぼくの鉛筆を少し分けてあげてもいい?」
クーが,今朝こっそり私に耳打ちした。
「もちろん!クーがそうしたいと思うのなら。
必要だと思ったことは自分で判断して助けてあげていいんだよ。」
そう言うとめちゃくちゃ嬉しそうに笑って自分の引き出しをあさり始めた。

クーからもらったカバンを肩からさげて嬉しそうに走り回るピッセイン。
中には…
・クーのお気に入りのミニカー1つ
・自分のありったけの鉛筆と消しゴム
・この間買ってあげたばかりの新しいノート2冊

午前中,同じ一年生のクーとピッセインは一緒にクメール語の勉強。
午後はマーリッとお絵かきをしたり,タエレアンとボールで遊んだり…

結局,親は現れなかった。

ピッセインは家を教えてくれなかった。
「わからない。」の一点張り。

今日も一緒に水浴び。
そっと尋ねてみた。
「ここの傷跡,どうしたの?」
「やけど。」
無表情で素早く答える。
「こっちはどうした?」
「やけど。」
「頭の傷は?」
「やけど。」

「そっか…。痛かっただろうにね…。」
そう言って抱きしめることしかできなかった。

明らかに火傷ではない。

夜,教頭から電話があった。
「明日朝一で孤児院に引き取ってもらうよう手配した。」 と。
「ちょっと待ってよ!まだ家も親も見つけていないのに!」
「何にも覚えていないのに,どうやって探すんだ?
もたもたしてて何かあったら学校の責任だ。」

校長に電話。
学校の責任も分かるけど,せめて,明日の朝だけ時間をほしい。
何としても親を見つける。
同じクラスの子どもたちが何か知ってるかもしれない。

渋々といった感じで9時まで猶予をもらった。

何なんだ。
責任,責任って…。
子どものことより自分たちの責任。
どこの世界もおんなじか。

ピッセインが寝て,久しぶりの家族会議。
マーリッ,タエレアン,クー。
2日間,あたたかくピッセインと関わり,助けてくれた。
3人への感謝と…今後のことを伝える。
明日の朝,親が見つからなければ孤児院に送られる。

クーの目から涙がこぼれた。
「孤児院はかわいそうだ。
ネアックルー,うちに一緒においてあげてよ。」

「ネアックルーだって本当はそうしたいんだよ。」
マーリッが私の代わりに答える。

「ぼくはいつかネアックルーと,子どもを助けるための組織を作るんだ。
ネアックルーみたいに,一人ひとりをちゃんと大切にするNGOにするんだ。」
泣きながらタエレアンが言った。


明日,親を見つけてどうしたらいいのか。
予感どおり,本当に虐待が行われていたとしたら…
黙って孤児院へ行った方がピッセインにとってはいいのではないか…

「お母さんに会いたい?」という質問には
「会いたい。」とはっきり答える。
虐待は思い過ごしなのか。

分からない。

まずは親を見つけること,真相を確かめることか。

私には目の前のたった一人の子どもさえ救うことができないのか。


ちぃ一家




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[ 2010/08/05 18:28 ] 日記 2010 | TB(0) | CM(2)

10 July. 2010 (Sat.)

ティアン。
いや,ピッセイン。
1年Dの②組の男の子。
クーとタエレアンの間に挟まれてぐっすり眠っている。

今日は夜の日本語教室がお休み。
今夜は子どもたちとミーチャーを作る約束をしていた。
19:30 仕事道具をバッグに詰め込み早めに帰宅準備しているところ。
無線で連絡が入る。
「校門のところにまだ下校していない子どもが一人いる」 と。
下校は17:00。
まさかと思いながら行ってみる。

校門の前にはちっちゃなちっちゃな男の子が一人。
宿直当番の6年生の先生がそばにいた。
名前は覚えていないが見たことはある。
確か1年生。

「名前は?」
「ティアン。」
「何年生?」
「わからない。」
「1年生じゃない?」
「うん。」

かろうじて会話になったのはここまで。

「おうちはどこ?」  
「いつもどうやって帰ってる?」
「歩いてる?誰かお迎えに来る?」
「お家は遠いのかな?」
「校門を出たら右に行く?左に行く?」
「担任の先生の名前は?」
「ノートの名前を見せてほしいのだけど,カバンはどこにある?」
「お母さんの電話番号わかる?」
「兄弟はいるの?」
「お腹すいたよね。何か食べた?」

全ての質問に
「わかんない。」
と答える。

周りにいた近所の大人たち。
「この子は記憶がおかしくなったんだよ。」
「さっきから何を訊いても 『わからない』 ばかり。」
「なんにも覚えていないんだから。」
「迷子で帰れないのに泣きもしないとはどういう子なんだ?」
そんなふうに言って,どんどん人が集まってきてしまった。

「ティアン,私のこと知ってる?」
「知ってる。」
「だぁれ?」
「ネアックルーちぃ。」

これにはみんながびっくりした。
周りの野次馬たちも苦笑い。

記憶喪失ではない。
何か事情があるのか。
校長に無線で連絡を入れる。
もう夜の8時。
とりあえず私の家に連れて行って食事をとらせることにした。

超特急でミーチャーを作る。
その間にクーとタエレアンが彼を水浴びさせてくれた。
クーの服を着て嬉しそうににっこりするティアン。
マーリッやタエレアンに優しく話しかけられ,少しずつ話すようになってきた。
私は聞こえないふりをしてご飯支度。
耳はダンボ。

「お父さんとお母さんは2人とも家にいる?」
「うん。」

「お仕事は何してるの?」
「してない。病気だから。」

「2人とも病気なの?」
「お父さんは家にいないからわからない。」

「お母さんに会いたい?」
「うん。」

「兄弟は?」
「いない。」

「いつも食事はお母さんと食べるの?」
「食べない。」

「ご飯食べないの?」
「食べたことない。」

「だれが作ってくれるの?」
「おばさんが作ってくれる。」

「じゃあ,おばさんと食べるんだ?」
「食べない。」

支離滅裂な会話。
この嘘だらけの話はどこからくるものなのか。

学校で話したときに彼の身体はチェックしていた。
身長はかなり小さいが,肉付きは悪くない。
しっかり食べている感じがした。
気になったのは肌。
暗くてよく見えなかったが,腕も足も6歳の少年とは思えないほどガサガサだった。

ミーチャーができてみんなで食卓を囲む。
手をあわせて一同「い~た~だ~き~まッす!」
ティアンは驚いてくすくす笑う。
マーリッが優しく話しかける。
クーが横でせっせと世話を焼く。
タエレアンが彼を笑わせようとギャグを連発させる。

少し馴染んできた頃,ようやく担任と思われるサーヴェー先生がやってきた。
「1年生」と「ティアン」という名だけが手がかり。
校長・教頭が調べてくれたのだが。
1学年約1,000名16クラスから探し出すのは,なかなか時間がかかった。

サーヴェーは家に入ってくるなり不機嫌そうに大きな声で喋り始めた。
「あんたはなんでこんなとこにいるの!」
「なんで家に帰らないの!」
「自分の家が分からないなんて!」

予想はしていたが…
自分のクラスの子が 『心配』 という感じが全くないことにがっかり。
普段はとても感じのいい20代のサーヴェー。
冗談が好きでよく笑って,何度も一緒に遊びに出かけたことがある。
教員としてはまるで別人。
「自分にも小さな子どもがいるのに!
なぜこんな時間に出てこなくてはいけないの!」
誰にともなく文句を言う。

「あんた,ティアンじゃないでしょ!なんで嘘つくの!」
これには驚いた。
本当の名前はピッセイン。
同じクラスのティアンという子の名を名乗っていたらしい。

学級ではどういう子なのかサーヴェーに尋ねる。
「私にわかるはずがない。産休から復帰してまだ3ヶ月だよ。」
友達はいるのか,出席状況はどうなのか。
そんなことも把握していない。
彼女は非常に感情的になっている。
だれもサーヴェーを攻めているわけではないのに。
子どもの前で言い訳のようなことを延々と話し続ける。

「今は今夜この子をどうするかを考えるのが先ではない?」
そう彼女のマシンガントークを遮った。

担任に引き取らせる。
そう思っていた。
子どものためというより,担任に自覚をもってほしかったから。

「今夜はサーヴェー先生のところに泊めてもらおうね。
同じくらいの男の子がいるから一緒に遊べるよ。
明日日曜だからゆっくりお家を探そうね。」
そう言ってみた。
ピッセインは下を向いたまま何も答えない。

サーヴェーがむきになって言う。
「私と一緒に行くよ!
行きたくないの!?
ほら,ちゃんと先生の方を見なさい。
先生のこと知ってるでしょ!?
名前はわかる?」

「知らない。」
椅子にしがみついてぼそりと答えた。

「じゃあこっちの先生は知ってるの!?」
「ネアックルーちぃ。」
サーヴェーは絶句状態。

「サーヴェー先生のところに行けるかな?」
ピッセインに尋ねる。
椅子を握った手にさらに力がこもる。

サーヴェーが尋ねる。
「ネアックルーちぃのところにいたいの?」
「バー」
小さく答えた。

優先順位は担任を育てることではない。
まずはこの子を救うこと。
私が間違っていた。

「よし,じゃあ今日はここで一緒に寝よう!」

サーヴェーはホッとしたようにさっさと帰っていった。

我が家の子どもたちはとってもあたたかく迎えてくれている。
それだけが救いだ。

寝る前,一緒に水浴びをした。
ピッセインの肌のガサガサ。
ほとんど水浴びをしたことのない身体。
石鹸でブクブクになってキャッキャと笑う。
洗いながら,彼の身体が傷跡だらけであることが分かった。
やっぱり…
イヤな予感。

今日は質問はもうやめよう。

明日は日曜日。

親はいるのだろうか?
子どもが帰らず心配しているだろうか?

我が子を想い眠れない夜を過ごす親が…
ピッセインにそんな親がいることを願う。




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[ 2010/08/04 18:26 ] 日記 2010 | TB(0) | CM(0)