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11 June.2008 (Wed.)

実習生のピアノ指導。
今日は養成校の寮の当番があるからとみんな早めに切り上げ,最後にヴェスナーだけが残った。
一番真面目な彼。
集中力も並外れている。
できないところを何度も繰り返す。
同じフレーズを何十回も弾きまくる。

「ヴェスナーはすごいね。その一生懸命なところ,大好きだな。」
そう言うと照れくさそうに笑った。
そして,真面目な顔をしてこう言った。
「本当のことを言うと…僕が一生懸命勉強しようと思ったのはワットボーに来てからです。
 ネアックルーちぃを見て,生まれ変わろうと決めたんです。」 と。

予想だにせぬ返答に目が点になった。

「少し話を聞いてもらってもいいですか?」
そして,自分の生い立ちの話を始めた。

自分には親も兄弟もいない。
両親をポル・ポトのせいで亡くした。と。

ここでまず,理解できなかった。
ポル・ポトは1975~1979年のはず。
ヴェスナーは21歳。
???
なぜ?
申し訳ないと思いながらも聞いてみた。

クメール・ルージュによる虐殺行為は,都市部では1979年に一応終結した。
が,地方では90年代まで虐殺が続いていた。と。
知らなかった。

中学時代,私がテニスに明け暮れていた頃。
こんなに近くの東南アジアの国でそんなことが起こっていた。
その後はたった一人のおばあちゃんと暮らしていた。
が,おばあちゃんがすぐに亡くなってしまった。

身寄りがなくなった彼はお寺の敷地内で暮らし始める。
同じように身寄りのない子どもたちと,ゴミをあさりながらなんとか生き延びてきた。
本当の兄弟のように助け合いながら生きてきた。と。

そのうち,そのお寺のお坊さんが子どもたちの面倒を見てくれるようになった。
小学校に通うことができるようになって,ヴェスナーは必死で勉強した。
いつも成績優秀なヴェスナーに目をかけたお坊さんは,彼を中学校にも通わせてくれた。

そして,教員になることを目指し,教員養成校に入学。
しかし,ここで彼は挫折を味わった。
都会に出てきて,貧富の格差の大きさを目の当たりにしたらしい。
裕福な友達は高校を卒業している。
そして塾に通い,みんな英語やフランス語を習っている。
もちろん働く必要もない。
携帯電話を片手にモトで遊びに出かけることもできる。
一方,貧しい学生たちは養成校の寮で生活。
寮は無料ということもあり,養成校の校長が彼らをこき使う。
朝から晩まで奴隷のように働かせる。
ので,自分の勉強する時間と体力が全くなくなる。
習い事なんかできるわけもなく。
自分で勉強しようにもテキストすら買うお金もない。
どんなに頑張っても貧乏人は報われない。
そう感じたヴェスナーはグレてしまったらしい。

寮の仕事をさぼって悪い仲間と夜な夜な出歩く。
授業も出なくなった。
学校の仲間からは 『悪い奴』 というレッテルを貼られていたようだ。
養成校での音楽の授業は,「トイレに行く」と言って教室を出て,一度も受けたことがない。と。

それが今,必死で国歌の伴奏の練習をしている。

ワット・ボーに実習に来れて良かった。
これまでの自分が恥ずかしくなった。と。
実習初日の放課後,僕とセイハーが校庭の掃除をしていたときのこと,覚えていますか?
もう帰るところだったネアックルーが,ほうきを持って戻ってきたんです。そして,
「こんな広い校庭を2人で掃除するなんてばかげている!
なんで一生懸命な人だけが大変な思いをしなくちゃいけないの!!」
と,カンカンに怒っていたんです。
そのときから,ネアックルーのことを目で追うようになりました。
いつだって皆に優しくて,人のために一生懸命働いている。
優秀な教員なのに偉そうにしない。
先生にも子どもにもみんなに愛されている。
自分もそんな人になりたい。と。

そして,「今度はネアックルーの生い立ちの話をしてください」 と。

…。
ヴェスナーに話せることがない。
どの時代をとっても幸せいっぱい,恵まれた人生。
その時々で悩んだり苦しんだりしたこともあったはずだが。
ものすごくちっぽけのことに思える。
自分がものすごくちっぽけに見える。

本当の苦しみや悲しみを知らない。

私の方がヴェスナーのような学生に逢えてよかった。

もっと頑張れる。
そう思わせてくれる。

もっともっと頑張んなきゃ。
そう奮い立たせてくれる。


私は本当の苦しみや悲しみを知らないかもしれない。
でも,本当のあたたかさやよろこびを知っている。

それら全てをお互いに共有できる。

そんな人になりたい。


そう思った。
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[ 2010/07/09 20:17 ] 日記 2008 | TB(0) | CM(0)
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