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12 July. 2010 (Mon.) 前編

夜中,1時帰宅。
キッチンのテーブルの上。
ピッセインが描いた一枚の絵。

『だいすきなねあっくるーちぃへ』



許せなかった。

子どもを傷つける人間が。
無責任な大人たちが。
子どもを守ろうとしない親たちが。

そして自分の非力さが。



朝5時半,担任のサーヴェーから電話が入った。
「クラスにピッセインの家を知っている子がいた」 と。
6時半,サーヴェー先生,シヴォン先生,ピッセインで彼の家へ向かう。

驚いたことに,家は学校から300mほどのところにあった。
こんなに近かったとは…。
家に着くと,母親らしき女性が両手を広げて
「あぁ!私の息子!」とピッセインを迎えた。
もう一人の女性が
「このバカな息子は!どこにいっていたんだ!」と怒鳴った。

「どっちがお母さんですか?」
「どっちもだよ。」
「…??」。
「そっちが生みの母で私が今の母。」
父親は出かけて留守だという。

父親には妻が2人。

最初の妻がこっそり外で話してくれた。
旦那が2人目の妻と結婚し,1人目の妻は2人の子どもを連れて田舎に戻った。
(正式に離婚をしたわけではない)
そこで新しい男ができ,子どもを元の旦那のところに預けた。
その男とだめになって,また子どもを引き取った。
その際に,子どもが虐待を受けていることを知った。
だが,また新しい男ができた。
そしてまた旦那のところへ子どもを預けた。
昨夜,たまたま電話で子どもたちが家にいないことを知った。
今朝慌ててシェムリアップにやってきた。と。

その割にはきれいに着飾っている。
バッチリメイクまできめて。
心配でいてもたってもいられずやってきた。という感じはない。

もっと驚いたのはピッセインに兄弟がいたこと。
同じ顔の男の子。
ワット・ボーの2年生。
彼も家出をしていた。
今朝,お寺で見つかって家に戻されたばかりだったという。

これで一件落着。
と,2人の母親は私たち教員を追い返そうとした。
シヴォンと目配せした。
「ここで子どもを引き渡すわけにはいきません。」
「私たちは家の確認に来ただけです。」
「まずは校長先生に会って話をしていただきます。」
「お父さんと2人のお母さんと,2年生の息子さんも連れて全員で学校へお越しください。」
「9時にお待ちしています。」

「親たちが逃げ出したら困る」
そう言って,サーヴェーは家に残って見張り番をした。

学校に戻ったが,校長はまだ会議が終わっていなかった。
クーとタエレアンを呼んで,ピッセインと一緒に保健室にいてもらうことにした。
そして校長室へ戻ったそのとき。
ピッセインの家族が現れた。
学校に戻ってまだ10分もたたない。
「ピッセインが心配で…」
と,媚びるような笑顔で父親が言った。

校長の会議が終わるまで待ってもらうことに。
教頭が親に話しかけた。
そのすきに,私はピッセインの兄に話しかけた。

兄の名前はピッサイ。
2日間,何か食べたのだろうか。
顔色が悪い。
「ピッサイ,顔を洗ってこよう。」
そう言って外へ連れ出した。
母親の視線を強烈に感じた。

顔を洗って外のベンチに2人で腰掛けた。
「ピッサイ,昨日は何か食べた?」
「・・・うん。」
「ずっと一人だったの?」
「うん。」
「誰かにご飯もらえたの?」
「うん。ず~~っと歩いたらパンをくれた。」
「ず~っとってどこまで歩いたの?」
「言えない。」
「どうして言えないの?」
「話したら殴られる。」
「誰に殴られるの?」
「言えない。」
「この傷はどうしたの?」
「・・・やけど。」
「こっちの傷もやけど?」
「・・・。」
「今日お父さんお母さんに学校に来てもらったのはね,
もうピッサイやピッセインが苦しい思いをしないようにするためなんだよ。
本当のことを教えてくれないかなぁ。」
ピッサイの目からポロポロと涙が落ちた。
「でも!話したら包丁で口を切るって言われた!」
「絶対にそんなことさせないから!絶対に絶対に大丈夫だから!」

気付いたら横にピッセインが立っていた。
少し離れたところでクーとタエレアンが見守っている。

「包丁で口切るって。本当なんだよ,ねあっくるー。」
ピッセインがぼそぼそと話し始めた。
「これはね,おばさんが包丁で殴ったの。」
自分の腕を差し出して言う。
「これはね,木の棒で殴られたの。」
「これはね,竹で刺されたの。」
「これはね,お父さんが殴ったときにコンクリートにぶつかったの。」
2人が身体中の傷について淡々と話す。

「お母さんは?今まで暴力を振るったことある?」
「ない。」
2人声をそろえて答える。

校長先生が会議室から出てきた。
校長先生と,まずは2人で校長室へ。
急いでこれまでのいきさつを報告する。

いつもとは雰囲気が違う。
校長先生と根本から意見が分かれたことは今までなかった。
大抵の問題は,お互い考えていることがよく分かる。
だが,今回は全く通じていない。
一昨日からの私のピッセインへの対応を快く思ってないのは明らかだった。
保護者と話す気はないと言う。

「ちぃはどうしたいんだ?」
と困った様子の校長。
「校長先生はどうしたいと思っていますか?」
「ここまでくると完全に家庭・親子・夫婦の問題だ。
我々は学校としての責任はすでに果たした。
あとは親が自分たちで解決すべきではないか。」
「責任はどうでもいい!大事なのは子どもを守ることじゃないか!
虐待を受けてる子どもを見捨てるのですか。
身体中の傷を見てください。
包丁で切りつけるような親の元へ,黙って子どもを返すというのですか。
それが 『学校としての責任を果たした』 ということなのですか。」
「こんなことはカンボジアではよくある。暴力がひどいようなら警察に任せるべきだ。」
「賄賂でコロコロひっくり返るようなカンボジアの警察に,子どもの命を任せていいのか。
子どもの立場に立って,最後まで子どもを守ろうとするのが教師じゃないか。
立場や責任のことばかり心配して,保護者と話もできないなんて情けない!
ここで子どもを見捨てるような学校なら,私はワット・ボーで教員なんかやってられない!」
「・・・・・・。」
しばらく沈黙が続いた。

「だが…両親がいるのに孤児院へ入れるというのは難しい…
親から引き離すのは無理ではないか…。」
「母親がいます。母親の家はコンポンチャムだから転校することになるけれど。」
「う~ん…。その母親も信用できないが。」
「少なくとも虐待はしていないようです。」
「そうか…」

意を決したように校長先生が立ち上がった。
虐待をしていた両親と話す。

その間に私は母親を校長室へ呼んだ。
虐待について伝える。
泣き崩れる母親。
「子どもを引き取る覚悟がありますか。」
「はい,連れて帰ります…。」
「絶対に二度と父親のところへ戻してはいけない…ということですよ…」
「はい…もう絶対に子どもを手放しません。」

部屋の外から校長先生の大きな声が聞こえた。
両親ともに虐待を認めない。
子どもは自分たちが引き取る,学校には関係ない。
と言い張る。
激しいバトル。
校長先生がキレた。
「よし,じゃあ今から警察を呼ぼう。
子どもたちの身体中の傷跡についてしっかり説明することだ!」
携帯を取り出す。
親が慌てる。
「ちょっと待ってくれ!」
「何も問題ないなら説明できるはずだ。
こちらの話を聞きえいれてもらえない以上,後は警察に任せるしかない。」
「わかった,わかった。子どもは母親と一緒に連れて行ってもらうことにする。」
父親が言った。
「別にうちは困らないよ。
これまで面倒見てやってきたのに,こんな仕打ちをされるとはね。」
2人目の妻が言った。

『子どもを母親に預ける』という書類にサインをし。
夫婦はさっさと帰っていった。

私の手を握り,心配そうなピッセインとピッサイ。

母親は荷物をまとめるために旦那の家に行くという。
「11時に学校に迎えに来る」と約束。
「ここで待っているんだよ。お母さんはすぐに戻ってくるからね」
そう微笑みながら子どもたちを優しく抱きしめ,急いで帰っていった。

保護者と真剣に話してくれた校長先生。
さすがだった。
私が言ったことなんて,本当は彼も分かっているんだ。
ただ,『家庭で起こっている問題に教員が入り込む』
というのはカンボジアではあり得ないこと。
そこに一歩踏み込んだ彼は,やっぱりすごい。

後編へ・・・


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[ 2010/08/08 21:48 ] 日記 2010 | TB(0) | CM(0)